知財判例メモ

自分用の備忘録として、知財の主要判例や、実務に役立ちそうな裁判例などをまとめていきます。理解しやすさを重視して、自分の理解の範囲内で表現を変更している箇所があります。正確な内容を知りたい方は、判決文をご確認ください。

最判平29.2.28「エマックス事件」

1.除斥期間経過後の特許法104条の3の抗弁の可否
商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判請求がされないまま商標登録から5年を経過した後は、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除いて、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる無効理由の存在をもって、特許法第104条の3の抗弁を主張することは許されない。

理由

  • 無効審判が請求されないまま除斥期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が無効理由の存在を主張しても、同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。
  • 除斥期間経過後であっても商標権侵害訴訟において4条1項10号該当を理由とする抗弁を主張し得ることとすると、商標権者は、商標権侵害訴訟を提起しても、相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり、商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした47条1項の趣旨が没却されることとなる。


2.除斥期間経過後の権利濫用の抗弁の可否
商標法4条1項10号該当を理由とする無効審判請求がされないまま商標登録から5年を経過した後であっても、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が自己の商品等表示として周知の商標又はその類似商標であることを理由として、権利濫用の抗弁を主張することが許される。

理由

  • 商標法4条1項10号の過誤登録の場合に、当該登録商標と同一又は類似商標について自己の商品等表示として当該商標登録出願時に周知の者に対してまでも使用の差止め等を求めることは、特段の事情がない限り、商標法の法目的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして、権利の濫用に当たり許されない。
  • 権利濫用の抗弁については、商標登録から5年を経過したために特許法104条の3の抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても、47条1項の趣旨を没却するものとはいえない。

 

平成27年(受)第1876号 不正競争防止法による差止等請求本訴、商標権侵害行為差止等請求反訴事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/543/086543_hanrei.pdf