知財判例メモ

自分用の備忘録として、知財の主要判例や、実務に役立ちそうな裁判例などをまとめていきます。理解しやすさを重視して、自分の理解の範囲内で表現を変更している箇所があります。正確な内容を知りたい方は、判決文をご確認ください。

最判昭63.7.19「アースベルト事件」

実用新案登録出願人が出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして、第三者が右出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案の内容を知った後に、補正によって登録請求の範囲が補正された場合において、その補正が、

  • 願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲を減縮するものであって、
  • 三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案の技術的範囲に属するとき

は、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である。

 

理由
三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するために右警告ないし悪意を要件とした立法趣旨に照らせば、改めて警告ないし悪意を要求しなくても、第三者に対して不意打ちを与えることにはならないからである。

 

昭和61年(オ)第30号 模造品製造差止等請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/204/052204_hanrei.pdf

 

最判昭55.1.24「食品包装容器事件」

審判の手続において審理判断されていた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断するにあたり、審判の手続にはあらわれていなかった資料に基づき当業者の出願当時における技術常識を認定し、これによって同考案のもつ意義を明らかにしたうえ無効原因の存否を認定したとしても、このことから審判の手続において審理判断されていなかった刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断したものということはできない。

 

昭和54年(行ツ)第2号 審決取消

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/362/053362_hanrei.pdf

 

最判平27.6.5「プラバスタチン事件」

1.PBPクレームの技術的範囲

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

 

2.PBPクレームの明確性要件
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

 理由

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

 

平成24年(受)第1204号 特許権侵害差止請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/145/085145_hanrei.pdf

平成24年(受)第2658号 特許権侵害差止請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/144/085144_hanrei.pdf

 

最判平9.3.11「小僧寿し事件」

商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。

 

理由

  1. 商標法38条2項は、同1項とともに、不法行為に基づく損害賠償請求において損害に関する被害者の立証責任を軽減する趣旨の規定であって、損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償責任があるとすることは、不法行為法の基本的枠組みを超えるものというほかなく、同条2項の解釈として採りえない。
  2. 商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではない。したがって、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上に全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである。

 

#損害不発生の抗弁

 平成6年(オ)第1102号 商標権侵害禁止等

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/791/052791_hanrei.pdf

 

最判平11.7.16「生理活性物質測定法事件(カリクレイン事件)」

1.方法(単純方法)の発明の特許権の効力

方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっているのであるから、方法の発明と物を生産する方法の発明とを同視することはできないし、方法の発明に関する特許権に物を生産する方法に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして、当該発明がいずれの発明に該当するかは、まず、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(70条1項参照)。
本件発明が物を生産する方法の発明ではなく、方法の発明であることは明らかである。本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれているとしても、本件発明を物を生産する方法の発明ということはできないし、本件特許権に物を生産する方法の発明と同様の効力を認める根拠も見いだし難い。

 

2.「侵害の予防に必要な行為」

100条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」とは、特許発明の内容、現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって、かつ、それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要するものと解するのが相当である。

 

平成10年(オ)第604号 特許権侵害予防請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/227/052227_hanrei.pdf

 

最判平29.3.24「マキサカルシトール事件」

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。

 

#均等論第5要件(意識的除外)

平成28年(受)第1242号 特許権侵害行為差止請求事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/634/086634_hanrei.pdf

 

最決平12.2.24「パチスロ機事件」

本件商標は、本件CPUが主基板に装着され、その主基板がA(パチスロ機)に取り付けられた後であっても、なお本件CPUについての商品識別機能を保持していたものと認められるから、前記起訴に係る被告人らの各行為について、商標法(前記改正前のもの)78条の商標権侵害の罪が成立するとした原判決の判断は、正当である。

 

 最高裁が是認した原審の判断>

商標の付された商品が、部品として完成品に組み込まれた場合、その部品に付された商標を保護する必要性がなくなるか否かは、商標法が商標権者、取引関係者及び需要者の利益を守るため商標の有する出所表示機能、自他商品識別機能等の諸機能を保護しようとしていることにかんがみると、完成品の流通過程において、当該部品の付された商標が、その部品の商標として機能を保持していると認められるか否かによると解すべきである。
そして、その判断にあたっては、商標の付された商品が部品として完成品に組み込まれた後も、その部品が元の商品としての形態ないし外観を保っていて、商標が部品の商標として認識される状態にあり、かつ、部品及び商標が完成品の流通過程において、取引関係者や需要者に視認される可能性があるか否かの点を勘案すべきと解される。

 

平成8年(あ)第342号商標法違反被告事件

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/226/051226_hanrei.pdf

[原審]平成7年(う)228号 大阪高判平8.2.13

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/244/022244_hanrei.pdf